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「だがな、ただ一人だけマクベスに会ったことがある奴を知っている。家主のバアサンのアンリエッタだ。バアサンなら話を聞くことが出来るが……会ってみるか?」
「是非!」
「ただ一つだけ、気をつけなきゃならねぇ。マクベスは得た金を貧しい奴等に渡してるからもしかしたらバアサンに家賃を払ってないかもしれん。
バアサンはがめつくてな、家賃滞納で身ぐるみ剥がされた奴がいるくらいだ。
ちょっとでも関わりのある奴と判断されたらどうなるか分からねぇ……
それでも会いに行くか?」
バースコートは何も知らないハルの身を案じて最悪の場合のことを説明した。
その目は若者の行く末を案じる年長者の暖かさと憂いに満ちていた。
それでもハルの意思は固かった。
「行くよ。旅の最初の目的を果たさないとこれから何やっても上手くいきっこないと思う。だから、俺は行く」
ハルの瞳に迷いはない。
「……分かった、連れてってやる。世間の荒波に揉まれるのも経験だな……
もう夜も深い、明日の朝出直し「おい!バースコートォ!俺の勇姿をちゃんと見てたのかよぉ!?おめぇんとこの連中に勝ってやったぜ!!だははは!!」
バースコートがハルの決意を受け取り、明日の話をしようとした所で腕相撲大会優勝者のナックルが割り込んで来た。
「おい、今大事な話してんだから邪魔すんなよ!」
「あんだぁ?おめぇが開いた大会の優勝者にえらく冷てぇ態度じゃねーか!」
酒が回っているのかやけに喧嘩腰だ。さらにナックルはからむ。
「だいたいよぉ、こんな貧相なガキに何が大事な話だ!砂塵のバースコートも廃れたんじゃねぇか?」
2m近い巨体はサンタンを引き締めたような体つきで、はち切れんばかりの筋肉の鎧に覆われている。
ハルをチラッと見下し、バースコートまでもこき下ろす。
この言葉で一気に酒場の中の温度が下がった。
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