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「おい、バースコート、ナックル、起きろってもう昼前だぞ?」
朝まで飲み続けた結果、バースコートとナックルは酔いつぶれてしまった。
ハルはと言えば顔色も変えず必死に二人を起こせる程に変化がない。
「……ハル、お前凄いな」
いつのまにか背後に近付いていたステッドラーがハルのざるっぷりに心底驚いたようだ。
ハルはステッドラーの呟きにも気付かずひたすら起こす。
次第に焦れたハルは最後の手段に出た。
「しょうがない――…
かっ!!」
刹那、一瞬ではあるが、ハルから凄まじい殺気が放たれた。
生物が持つ本能、危機感を突き動かすには十分過ぎる殺気にバースコートとナックルはガバッと起きた。
何事かと驚きふためく二人の前で微笑むハル、いたずらっ子のようだ。
「起きた?もう昼前だぞ?」
「あ、ああ、ハルか。ん?さっきのは、まさか、お前が?」
バースコートは周りにステッドラーしかいないことを確認し、目の前のあどけない笑顔の青年をまじまじと見た。
「なんのこと?それより早くアンリエッタの所まで連れていってくれよ!」
「……ま、いいか。よし!行くか!」
納得していない様子のバースコートだったが、本人の言質を取らずとも自分の勘に間違いはない、と思っていた。
だからこそ、答えにこだわることなく気軽に応じた。
しかし、ステッドラーはそうはいかなかった。
マスターであるバースコートをオヤッサンと親しみを込めて呼ぶこの男としては、先の殺気は看過出来るものではない。
例え起こす手段としても。
が、目の当たりにした、というよりもろに浴びた殺気は軍の連隊長、ギルドマスタークラスのものであり、実際ステッドラーは身動き出来ず、手出し出来るものではなかった。
それにハルの純粋な笑顔を思い出せば、とても人に手を下せるようには見えないし。
(ハル……お前は一体何者なんだ?)
ステッドラーはひどく困惑した。
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