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「ハァ、ハァ、ハァ、ちょ、ちょっと、とばし、過ぎたか――…
ハルは全力で駆け飛び続けた。
結果、半日。
僅か半日で街道沿いの薄暗い森にまで到着した。
「へ、へへ、ど、どんなもんじゃい」
修行中、一度として勝つことの出来なかった師たるジイの一つの記録を塗り替えることが出来たことに一人満足し、笑う膝に両手をついて我慢していた疲れを受け入れて、そのまま後ろへ大の字で倒れた。
薄暗さによるものか、ひんやりとした森の冷気が心地いい。
空を見、冷気を味わい、大地を感じ、鼓動に耳を澄ませる。
大地とは場所によって様相は変わるものの、その場所においては悠然と佇み年を重ねるだけだ。
自然と融和することで心身を調える、光陰流の大切な教えである。
教えに従うハルに異変の足音が。
「ん?なんだろ?人の足音かな?1、2、3……7、とやたら重たい足音が――」
寝たままの姿勢で大地から届いた音を分析する。
その時、恐らく街道が伸びているであろう方向から耳で拾える声が聞こえた。
それに混じる獣の咆哮と共に。
上半身を起こし声が聞こえる方へと耳を傾け改めて確認する。
手は腰に提げてあった刀へとゆっくり伸びる。
次第に顔付きが真剣味を帯びていく。
立ち上がりゆっくりと街道へ。
いざ、未知との遭遇へ。
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