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「ハルっていいます。あ、けど「畏まりました!ハル様ですね!?少々お待ち下さい!!」って、ちょっと!あ……」
ハルが止める間もなく店員はカウンターの奥へと走り出していった。
そしてふと周りを見れば、客も店員もハルを見て固まっていた。
「え?何この状況?俺また何かやった?」
一人戸惑うハルに状況を説明するものはいない。
ただ奇異なものを見るような、珍しいものを見るような視線を浴びていた。
居心地の悪い空間に疑問符を浮かべたまま待つこと数分、先の店員がまた慌ててやって来た。
「お待たせ致しました!ささ、こちらにどうぞ!」
と行く手を手で示しながら中腰で先導し出す。
カウンターの奥は思ったより広く、幾つかの扉以外は色んな冊子が並んだ棚で壁を埋め、真ん中に机が集まり、その机の上も書類が山積みだ。
その部屋を行き過ぎると中庭のような場所に出て、正面には贅沢な感じのする華美な家があった。
庭を突き抜け家に入る。様々なアンティークや甲冑・剥製の並ぶ廊下を曲がり二階へ上がる。
(……何?これ何なの?何故にあんな姿勢?曲がり角の度に「ささ」って言うのは作法?何これ?俺どこ行くの?)
先を行く店員の後ろで理解に苦しむハルは小首を傾げながら考えていた。
やがて、大きな扉の前に連れて来られ店員が告げた。
「この中にアンリエッタ様がおられます。くれぐれも粗相のないように……」
声を低めハルに忠告すると扉をノックした。
「アンリエッタ様、お連れしました」
『入れよ』
「はは!どうぞ、ハル様お入りなって下さい」
「あ、ああ」
深々と頭を下げる店員に曖昧に答えると扉を開けた。
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