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「ふん、せっかちな奴だね……
マクベス、奴の素顔を見たのは一度だけ。何年前になるか、奴はふらりとウチに寄ってね、ボロのマントにフードを深く被り、いかにも見るからに怪しい奴だったよ。
しかしね、ウチの店のものがいくら追い払おうとしても動じず、仕方なしにあたしが赴いたのさ。
礼儀は知っていたのか、深く穏やかな声で丁寧に頼んだ来たのが印象に残っている。
この部屋に連れて来て話を聞けば、金がいるという。だから商売がしたいと、珍しい物を扱う店をな。
買い付けは自分がする、例えばレメロンを、と言ってあたしに見せたよ。扱う商品を、それもレメロンのようなものを見せつけられちゃあ、あたしも認めざるを得ないからね。店を貸してやったよ。
その時初めてフードを取って素顔を晒したよ。あれはいい男だったねぇ、渋みのある顔、堪らなかったね。
まぁ、それからはほとんど姿を見せなかったけどね。ふん、全く味気のない男だよ!店番は知り合いのじいさんに頼んでたみたいでね、集金もそのじいさんが担当さ。
いつだったかね、じいさんが亡くなったのは……そのまま店を畳むのかと思っていたら、またふらりとやって来て、"倉庫として使いたい"なんてぬかすじゃないか、断ろうとしたらまた珍しい物を持ってきてね……
結局、あの店はそのまま貸してやったよ。それからは店を倉庫に怪しい仕事をしてるみたいだね。最後に会ったのも1年前かね?その後は噂にも聞かないよ、あたしがマクベスについて知っているのはそんなもんだね……」
アンリエッタはハルに自分の知る所をほぼ全て話した。
時折懐かしむような表情を見せながら話す様子からは、マクベスに対して素性は分からなくても信頼出来る男であり、惹かれているような雰囲気もあった。
口を挟まず神妙に話を聞いていたハルもマクベスという男に何か思う所があるのか、自然と口が開いた。
「……悪い人じゃないみたいだね。マクベスは俺の師匠の友人なのかな?あまり人と接したくないけど、優しい奴。師匠とウマが会いそうだよ」
「ふん、お前さんの師匠がどんなお人か知らないけどね、ヨミ山脈にこもるなんて変人同士なのは間違いないね」
「はは、確かに!」
そこで初めて二人は同時に笑った。
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