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「さて、ハルよ。お前さんはマクベス商店に行くつもりであって、マクベスには用事は無かったんだね?」
アンリエッタは仕切り直すように細い煙草に火をつけながら話し始めた。
「ん?そうだな。マクベス商店に行くように言われただけだからね」
「けれど、マクベス商店は行った所で閉まっているし、主もいない。どうするつもりだい?」
灰を落とし、紫煙を燻らせる。アンリエッタは何か思案しているように見える。
「んー、特に考えてなかったな」
頭の中にはサンタン、エリーゼ、バースコートの顔が浮かぶがピンと来ない。
ハルは今や街の大物に一目置かれる存在となりつつある。
「……実はね、マクベスとはあの店の賃貸契約を長期で交わしているんだけどね、1年前に半年分はもらった……けどね、半年前から今日までの分が未払いなのさ」
ハルはそれを聞いて小首を傾げ、話の行き先に俄に不安を覚える。
アンリエッタは考えを整理しながら目を細め、深く煙草の煙を吸い込む。
そして、すぅーと煙を虚空に吐き出す。
火を消し、ハルに含みを持った視線を向ける。
「お前さん、マクベスの変わりに店をやらないかい?」
「はい?」
「マクベスはこのあたしに借金を作ってるのさ。あの店は優良物件で引く手あまただけど、マクベス商店は開いてなくても契約は活きている。ひと月銀貨20枚の6ヶ月、しめて金貨4枚。
お前さん、直接でないにしろマクベスには世話になってたんだろ?肩代わりしてもいいんじゃないのかい?」
「っぐ!いや、だからって店なんか出来ねーよ!他にも返す方法あんじゃねーの!?」
ハルはアンリエッタの言い分に反論出来ず、とりあえず店をやることだけは避けようとした。
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