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「っ、く、ま、まずい!だ、誰か、た、助けを!!」
後ろを振り向くことなく必死の形相で走る一団。
その先頭を行く大男が声を漏らした。
モジャモジャの髪に顔中に髭を生え散らかし、ボロの洋服と獣の皮を混ぜ合わせた不思議な格好、背に斧を帯びている。
いわゆる山賊であった。
命知らずの悪行に走る山賊も後ろから追ってくる生き物には勝てないようだ。
ふと、先頭を走る大男は街道の先に一人の男がいることに気づいた。
素朴な洋服に剣を帯びているように見えるが、顔付きは垂れた黒い前髪のせいで分かりにくい。
後ろの生き物が見えているはずなのに逃げる様子がないことから腕に自信があるんじゃないかと咄嗟に判断。
「た、助けてくれぇえ!!」
思わず情けない叫び声を上げてしまっていた。
『ブォオオオオオオオオ!!』
直後、獅子の咆哮の比ではない死を予感させる叫びがすぐ後ろから放たれた。
思わず振り返る山賊の一団、そこには巨大な口を開けた"ドラゴン"がいた。
牛を丸呑み出来そうな口にそれを支える巨大な顔、体高3m体長5mはある。
滑らかな濃緑の見るからに硬そうな鱗で守られた体を腹這いに四つ足をついて走る様は巨大なトカゲのようである。
小山のような体躯が迫り、死を覚悟した瞬間、何かが横を風のように過ぎ去った。
それはそのままドラゴンの口に飛び込み―――
「光陰流剣舞・舞悲鳴(マイヒメ)」
ハルの冷徹な声がくっきりと聞こえた。
そして―――…
『アガ――オオォ――ア――…
ドラゴンの途切れがちな弱々しい悲鳴が舞い、巨体な体躯を大地に打ち付け轟音が響いた。
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