≪彼女≫

2/6
前へ
/165ページ
次へ
「昔な、ステイゴールドって言う馬がいたんだ。その馬はな、なかなか勝ちきらんやった。でもな、どんなレースでも、手を抜かずに頑張るんだ。必死に走って、そのレースが勝てなくても、次のレースも腐らずに頑張る。そして、引退レースで最後奇跡の一着になったんだ。父さんはな、この馬に、どんなことでも手を抜かずに頑張る大切さを教えてもらったんだ。だからな、お前にもこの馬のような人間になってほしくて、優駿から一文字もらって、駿ってつけたんだよ」 競馬が大好きだった父さん。 その父さんと時々喧嘩しながらも、陰ながら支えていた母さん。 2人は僕が小学生の時に、高速道路での玉突き事故で亡くなった。 僕と、まだ幼い妹を残して。 そのまま、車両火災になったため、両親の遺体は原型をとどめておらず、僕らは遺体を見ることすらできなかった。 僕は小学生にして、人の命の儚さと、残される側の気持ちを知ってしまった。 悲しい。いや、それだけじゃない。 悲しみよりも、もっともっと深い部分にあるもの。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加