≪彼女≫

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残されて得たものは、言葉では表現しがたい「何か」だった。 その「何か」は、その後の僕の人生において、常に僕にまとわりつくこととなる。 辛かった。 死のう、と思ったことさえあった。 それでも、父母が残してくれた命だから、と思うと、何とか思いとどまることができた。 何とか? いや、違う。 残された、という思いは、大きな足枷にすらなっていたのだ。 僕はその足枷の存在を気にしながら、何をすることもなしに、脱け殻のように生きていかなければならなかった。 そんな僕を救ってくれたのが、ミサオだった。 ミサオは、僕の人生においての初めての恋人だった。 彼女は、人を安心させる不思議な力を持っていた。 これが俗にいう『母性』というやつだったのだろう。 そんなミサオも、僕を残して死んでしまった。 ミサオの死も、僕にとって大きな足枷となってしまった。 僕は誓った。もうこれ以上、残してしまう大切な存在をつくらないと。 いつ死んでもいいように。 残されるものがいないように。 今は、両親の死後に僕らを支えてくれた叔父夫婦の援助と、あとはバイトをして生活している。 妹は、叔父の援助で美容師学校へ行き、卒業後すぐに結婚した。 今は一児の母である。
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