294人が本棚に入れています
本棚に追加
残されて得たものは、言葉では表現しがたい「何か」だった。
その「何か」は、その後の僕の人生において、常に僕にまとわりつくこととなる。
辛かった。
死のう、と思ったことさえあった。
それでも、父母が残してくれた命だから、と思うと、何とか思いとどまることができた。
何とか?
いや、違う。
残された、という思いは、大きな足枷にすらなっていたのだ。
僕はその足枷の存在を気にしながら、何をすることもなしに、脱け殻のように生きていかなければならなかった。
そんな僕を救ってくれたのが、ミサオだった。
ミサオは、僕の人生においての初めての恋人だった。
彼女は、人を安心させる不思議な力を持っていた。
これが俗にいう『母性』というやつだったのだろう。
そんなミサオも、僕を残して死んでしまった。
ミサオの死も、僕にとって大きな足枷となってしまった。
僕は誓った。もうこれ以上、残してしまう大切な存在をつくらないと。
いつ死んでもいいように。
残されるものがいないように。
今は、両親の死後に僕らを支えてくれた叔父夫婦の援助と、あとはバイトをして生活している。
妹は、叔父の援助で美容師学校へ行き、卒業後すぐに結婚した。
今は一児の母である。
最初のコメントを投稿しよう!