≪彼女≫

4/6
前へ
/165ページ
次へ
あの日を境に、僕と川野家の仲は急速に深まった。 合鍵は渡してもらったものの、鍵を忘れても僕の家へ遊びに来るナツミには関係なく、しまいには、毎日のように僕の家へ来るようになってしまった。 母親も初めは、あまりお世話になりすぎるのは、と渋っていたが、だんだんその方が安心だと思ったのか、今では朝の仕事前に、 「今日もお願いします」 と一声かけて、出ていくようになった。 僕も満更嫌でもなかったし、もし子供がいたらこんなだろうな、と楽しみながらナツミと接している。 本格的に冬に入った12月のある朝のこと、僕が週一回の不燃物の回収へ行くと、たまたまそこにナツミの母親がいた。 「あ、川野さん、どーも」 「広田さん、おはようございます」 他人同士の関わりがずいぶん希薄な僕のアパートでは、この光景はかなり異質なものに見えたかもしれない。 実際、他人同士で交流を持っているのは、僕の知る限りでは、ウチと川野家くらいだった。 「いい天気ですね」 川野さんは僕を見て、優しく微笑んだ。 今日は珍しく、ちゃんと髪の毛がセットしてある。 やっぱ美人だ、と思った。 「川野さん、今日は寝間着でごみ捨てですか?」 「あらやだ、広田さんだって寝間着じゃないですか」 「男はいいんですよ、男は」 僕たちはごみ捨てを終えた後、2階の踊り場でいろんな話をした。 僕の部屋でのナツミの様子、ナツミの小さな頃の話など。 「初めは僕のことをおじちゃんって。まだ30手前だし、おじちゃんはないだろって言ったら、次はシュンって。間違いじゃないんですけどね」 川野さんはひとしきり笑った後、言った。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加