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あの日を境に、僕と川野家の仲は急速に深まった。
合鍵は渡してもらったものの、鍵を忘れても僕の家へ遊びに来るナツミには関係なく、しまいには、毎日のように僕の家へ来るようになってしまった。
母親も初めは、あまりお世話になりすぎるのは、と渋っていたが、だんだんその方が安心だと思ったのか、今では朝の仕事前に、
「今日もお願いします」
と一声かけて、出ていくようになった。
僕も満更嫌でもなかったし、もし子供がいたらこんなだろうな、と楽しみながらナツミと接している。
本格的に冬に入った12月のある朝のこと、僕が週一回の不燃物の回収へ行くと、たまたまそこにナツミの母親がいた。
「あ、川野さん、どーも」
「広田さん、おはようございます」
他人同士の関わりがずいぶん希薄な僕のアパートでは、この光景はかなり異質なものに見えたかもしれない。
実際、他人同士で交流を持っているのは、僕の知る限りでは、ウチと川野家くらいだった。
「いい天気ですね」
川野さんは僕を見て、優しく微笑んだ。
今日は珍しく、ちゃんと髪の毛がセットしてある。
やっぱ美人だ、と思った。
「川野さん、今日は寝間着でごみ捨てですか?」
「あらやだ、広田さんだって寝間着じゃないですか」
「男はいいんですよ、男は」
僕たちはごみ捨てを終えた後、2階の踊り場でいろんな話をした。
僕の部屋でのナツミの様子、ナツミの小さな頃の話など。
「初めは僕のことをおじちゃんって。まだ30手前だし、おじちゃんはないだろって言ったら、次はシュンって。間違いじゃないんですけどね」
川野さんはひとしきり笑った後、言った。
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