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「あの子、本当は人見知りなんですよ。私もあの子が小学校に上がったばかりの頃は、知り合いの家に帰らせるようにしてたんですけど、あの子が嫌がって。だから、広田さんのことを人見知りしなかったのには、少しびっくりしました」
「えっ、あのナツミが?」
僕は思わず問い返した。
信じられなかった。
確かに初めに声をかけたのは僕の方だが、その後ナツミは自ら僕のテリトリーに入ってきた。
どちらかというと、僕の方が人見知りの傾向がある。
「でも、どうして……」
「思い当たる節が1つあるんです」
そう言って、川野さんはじっと僕の方を見た。
「死んだ夫にそっくりなんです」
「……僕がですか?」
間抜けな質問だった。この場には、僕と川野さんしかいないのだから。
川野さんは、はい、と寂しく笑った。
川野さんの生まれは、九州の方だそうだ。
父親が大酒のみで、家族にすぐに暴力を振るうので、母親と姉と共に、小さい頃に上京してきたらしい。
そのため、家庭の経済状況はとても厳しく、川野さん自身も中学卒業後は進学をせずに、働くこととなった。
その働き口で出逢ったのが、後の夫となる男性だった。
「初めは、すごく粗野で無神経で、あまりいい印象を持ってなかったんです。でも、何度かアプローチされるうちに、あぁ、この人は不器用なだけなんだって分かって。ぶっきらぼうな言葉のなかにも愛情があるんだって思ったんです」
川野さんは、踊り場から身を乗り出して、嬉しそうに言った。
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