≪出会いの秋≫

2/8
前へ
/165ページ
次へ
可哀想な親子だった。 ある朝読んだ新聞の社会面に、小さな記事が載っていた。 『社会保障に光見えず――母娘餓死』 普段なら軽く読み流し、たいして気にも留めないような記事なのに、今回ばかりは目が釘付けになってしまった。 思い当たる節がひとつあるのだ。 僕の住んでいるアパートは、築20年で3階建て、1つの階に2部屋ずつの計6部屋という、いたって標準的なアパートである。 最寄りの駅から徒歩で20分、少し歩けば大手のスーパーがあり、立地条件も普通。 あえて特筆すべき点は、家賃の破格の安さといったところか。 それ故に、このアパートには、いかにも訳あり、という人たちばかり住んでいた。 それは、僕のお向かいさんも例外ではなく、そこには、ひどく痩せた母親と、その母親と同じように不健康な体つきの小学生の女の子が住んでいた。 僕のアパートでは住人同士の交わりはほぼ皆無なので、たまにすれ違うか、ごみ捨てが重なったときに軽く会釈を交わす程度であったが、母親を見た感じでは、鼻筋が通っていてきれいな人だと思った。 ただ、髪を気にする余裕がないのか、いつもボサボサなので、容姿のことはおいといて、あまり関わりたくない感じの人だった。 娘さんの名前はナツミといって、毎日薄汚れた赤いランドセルをからい、黄色の帽子を被って登校しているのを見かける程度。 ただ、すれ違うときには小さな挨拶をしてくれるので、そういうところはちゃんとしつけしてあるんだなと感心していた。 母親は、娘が学校へ行ったあと、すぐに何処かへ行き、いつも夜の9時頃に帰ってくるという生活をしているらしかった。 娘を夜に1人にしておくことに、僕は強い憤慨を覚えていたが、そうしなければならないほど、生活状況は厳しいようだった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加