≪出会いの秋≫

3/8
前へ
/165ページ
次へ
それ故、新聞の記事を見たときに、これはお向かいさんのことではないかと本気で思い、外の様子を見に行ったくらいだった。 幸い、そのようなことはなかったけれど、生活は相変わらず厳しいらしく、冬に入った頃には、母親が朝に帰ってくることも稀にあるくらいだった。 冬のある日の夕方、僕がバイトを終え、自室があるアパートの2階へ行くと、3階へと続く階段の途中に例の娘さんが身を小さくして座っていた。 まだ僕の存在に気づいていないのか、僕が隣に来ても俯き加減のままだった。 「よっ、どうした?」 帽子を軽く叩くと、ビクッと体を震わせ、僕の顔を見上げた。 初めて顔つきをまじまじと見たが、母親に似て鼻筋が通っていて、整った顔立ちであった。 初めは、知らない人だと思ったのか、警戒する目つきであったが、すぐに向かいの人だと認識したのか、安心したように口を開いた。 「あのね、鍵忘れちゃったからね、お家に入れないの」 「はぁ……なるほど」 大方予想はついていたので、別段驚きはなかった。 日はとっくに沈み、だんだん冷え込んでくる時間帯である。 「じゃあ、ウチ来るか?」 「えっ……いいの?」 ナツミは驚いたように、大きな目をぱちくりさせた。 「いいとも。ウチ何もないけどな」 僕が苦笑すると、ナツミは、でも……とわずかに表情を曇らせた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加