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「ご迷惑じゃなかったでしょうか?」
「いえいえ、ナツミちゃんホントにいい子でしたよ」
なっ、とナツミの頭を叩くと、ナツミは照れたようにはにかんだ。
「ホントありがとうございました」
再び頭を下げる母親に、僕は、いえいえ、と頭を掻いた。
「ランドセルとか忘れないようにな」
「はーい」
ナツミは元気よく返事をして、部屋へ戻っていった。
僕は母親と2人っきり玄関へ残された。
こういうの全然慣れてないんだよな。何を話していいのやら……。
気がつくと、母親ははっとしたように、僕の顔を見つめていた。
「……僕の顔に何かついてます?」
「あっ、いえっ」
母親は慌てたように手を振った。
「あの……」
「帽子がなーいっ」
母親は何かを切り出そうとしたが、ナツミの声に中断された。
すいません、と一声かけて、僕は部屋へ戻った。
「どーした?」
「学校の帽子がないの」
ナツミは涙目で僕を見上げた。
「帽子……?その被ってるやつじゃなくて?」
「えっ!?」
ナツミは目を丸くして頭へ手をやり、帽子を被っていることを確認すると、照れたように頭を掻いた。
「はいはい、もう忘れ物ないな?」
「えーっと……うん!」
僕はナツミを連れて、母親の元へ戻った。
母親はよほど疲れていたのか、玄関に座り込んでいた。
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