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「今更、だろ…?」
「遅くなって、ごめん…。でも、俺は…」
「いや、だ…。聞きたく、ない。僕、ボクはっ…―――んぅ!?」
シアワセ ニ ナッチャイケナイ
そう言いそうだった彼の唇を、無理矢理塞ぐ。
驚いたような彼の表情を今までにないほど近くで見て。
あぁ、やっぱり愛しいと。手放せないと、思ってしまった。
ばたばたと暴れるけれど、哀れなほどに、彼の抵抗は力がなくて無意味だ。
もともと華奢だったところに、この病院での年月が、彼から力を奪ったんだろう。
片手で、彼を押さえつけて。もう片方の手で、彼の頭を固定して。
唇の狭間に舌を割り入れれば、ビクリと、その体が跳ねた。
俺は、勝手だな。
彼から愛されたときは拒絶して、彼が俺から離れようとすれば、それを阻止して。
そして今も、愛されたいがゆえに、彼がこの数年で築き上げてきただろう無感情な仮面を、壊そうとしている。
それでいて、護りたいとも、思っていて。
固定していた手を離して、体のラインに沿って滑らせる。
怯え、困惑した表情はどこまでも俺を煽って。でも駄目だと、頭の隅で理性がブレーキをかける。
“恋愛に教科書はない。だから、ボクの愛は、愛し方は、間違っているのかもしれないね…”
かつての君が、たった一瞬だけ、小学生の俺に見せた戸惑いと後悔。その意味がやっと分かった。
明確な正解がない。手順も、方法も、あっているのか分からない。だからこの感情をそう呼んでいいのかも分からない。
でも、明確な正解が見えないからこそ、自信を持てることもある。誓えることがある。
だからこそ、郁、俺は…
護りたいという感情と、壊したいとすら感じる衝動がない交ぜになるこの想いを、俺は愛と名付けよう。
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