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優奈はその日、イライラしていた。通学の途中で、他校の男子にナンパされたからではない。まして電車の中で無礼千万な痴漢を撃退したからでもない。
「優奈、さっきから怖いんだけど…。」
「あ、ごめん。…ちょっとね。」
イライラを親友の佐藤茜にぶつけるわけにもいかず、作り笑いでやり過ごした。
《何で私が…、イライラしてるのよ!》
原因は、杉崎雅也。クラスメイトで、一緒に学級委員をしている。と言っても、実質的には、優奈一人が委員をしているに等しい。
その雅也が、どう考えても場違いなくらい年上の女性と、腕を組んで歩いているのを、目撃してしまったから…。
「浪川、これ生徒会の人に預かった。」
「ありがとう。」
同じくクラスメイトの高岡潤が、少年らしい爽やかな笑顔で、うんざりするくらいの紙の束を、優奈の机に置いた。
「はぁ…、またアンケート。」
「高岡君ってさ、いつも優奈を見てるよね?」
「え?知らなかった。」
優奈は、父譲りの美少女で、母譲りの鈍感少女だ。クラスの誰もが気付いている事にも、疎い。茜は、そんな優奈にため息を漏らした。
「年中行事の見直し…。こんなのして、意味があるとは、思えない…。」
夏は、水泳大会。秋は、体育祭と文化祭。冬はスキー教室。ここまでなら、よくある学校行事…なのだが。春はお茶会…。このよくわからない行事を廃案に追い込みたい生徒会は、毎年躍起になっている。
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