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「魔法適性の欄が空欄になっておりますが……、それはつまり学院の方には行かれていないということでしょうか?」
学院? 何だそれは。
いや、名前からして学校なんだろうけども。
真意の見えない質問に答えに詰まり、俺は一瞬黙り込んでしまった。すると女性はその沈黙を否定と取ったらしく、その平淡な調子で言う。
「ご存知でしょうが、魔法適性のある者は最低三年間の学院での就学を義務づけられています。そして平民のお二方は気づいてらっしゃらないかもしれませんが、私の見たところ、お二方には魔法適性がございます」
女性ははきはきとそう言いながら、手元の棚や引き出しから様々な書類を引っ張り出し始めた。
よく観察すれば、その書類のほとんどに『学院』という文字が踊っている。
「ギルドでは十三歳以上の平民で魔法適性のある者を発見した場合、早急に学院への入学をお勧めする決まりになっております。幸い来月から新学期になりますし、こちらで諸々の入学手続きはさせていただきますので」
集めた書類を机で揃え、女性はずいと俺に差し出す。
「どうぞ、お確かめ下さいませ。詳しくはそちらの書類をどうぞ。尚、ギルド登録の手続きはこれで完了となります。本日中にギルドカードを発行いたしますので、明日以降にお受け取り下さい」
有無を言わせない眼光で俺を見たまま一気に言い切り、女性はそのまま受付の奥の部屋へと去って行ってしまった。
何と言うか、物凄い迫力のひとだった。できる女ってのはああいうのを言うんだろう。
「……え、どういうこと?」
目をぱちくりとさせるルシフェルに、俺は簡潔に答えた。
「来月から学校行けってさ」
◆ ◆ ◆
とりあえず金がないので何らかの依頼を受けたかったのだが、ギルドカードが発行されない限り依頼は受けられないらしい。
しょうがないので今日は野宿を覚悟した。幸運なことに俺もルシフェルも食事要らずだし、寒さや暑さにも強い。風呂に入れないのは些かあれだが、一日くらいは大丈夫だろう。
ホームレスの如く適当な公園で寝ようかと考えていたのだが、聞くにギルドは二十四時間営業らしいので、ギルド内で一晩を過ごすことにした。
一番奥の目立たない席で、俺は先程女性に貰った書類に目を通していた。テーブルを挟んだ向かいの席では、ルシフェルが暇そうに視線を泳がせている。
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