神様のお茶会

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 そこに転がっていたのは、何の比喩でもなく死体だった。  俺の場所からじゃ、角度的に顔は見えない。  でも、確かにその死体はひとの形をしていた。  その死体を認識した途端、頭痛を伴いながら頭に直接流れ込んでくる情報。 「……ッ」  ズキッとする頭痛に堪えるべく額のあたりに右手をあてたところで、すぐにその痛みは去った。  代わりに、今までに存在しなかった情報が頭の中にあった。不必要な情報は一切なく、かなり漠然としたものだ。  曰く、死に絶えてそこに転がっている男は、この世界の前魔王である。  曰く、この前魔王の目的は在り来りに世界征服であった。  曰く、彼の命と引き換えに作られた彼の後継者が俺であり、つまり俺は現魔王である。  魔王とは、また物騒な。楽しそうだが、同時に面倒くさそうでもある。勇者と戦うのか。何か運命的に負けそうだ。  勝ったら物凄く面白い状況になるんだろうけど、まぁ過度の期待はよくない。とりあえず平凡な人生になることはないだろうし、気楽に行こう。うん、そうしよう。  わりと軽く問題を先延ばしにし、俺は再び立ち上がる。  父親の死体の傍に転がった王冠を拾い、自分の頭にかぶる。  裸の王様じゃん、とくだらんことを考えたところで、俺は神から貰ったプレゼントのことを思い出した。  そのプレゼントを呼び出すために、俺はその名前を呼ぶ。 「ルシフェル」  そう大きくない声だったが、静かだからか案外響いた。  すると、俺の正面に黒い風が渦巻くように吹き、その中から男が現れる。  ボサボサに伸びまくった黒髪。その前髪の隙間から見える赤い目。服装はボロボロの黒い布をそれっぽく身体に巻き付けているだけだった。  まぁ今まで牢獄生活だったらしいので、仕方ないといえば仕方ないのか。  堕天使ルシフェル。  俺が神からのプレゼントということで貰った、俺だけの下僕だ。  そもそもは堕天として処分される予定だったのだが、俺があの時「下僕が欲しい」と神に言った結果「じゃあこれは?」と提案されたのだ。
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