王立ギルド『開け胡麻』

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 それから三日ほど、俺達はその部屋で過ごした。  魔王である俺、堕天使であるルシフェル、共に食欲なんてものはなく、外に出る必要性がなかったのだ。  睡眠をとり、その辺にあったチェスセットで遊び、本棚の書物を漁る。  三日間その繰り返しだったのが、ついに三日目、俺はとある本を片手に立ち上がった。 「……御主人様?」  この世界の神話を載せた本を読んでいたルシフェルが、突然立ち上がった俺に疑問の声をかける。 「おかしい」  俺ははっきりとそう発音し、持っていた本をルシフェルに投げて寄越した。ルシフェルはそれを危うく受け取め、「どういうことだ?」と首を傾げる。 「その本はこの世界における魔法魔術の基礎を載せた教科書みたいなものだ。魔力の練り上げから初級魔法までの、学生が学校で一番最初に授業に使用するような」  俺はそう説明をしながら、部屋の壁に設置された大きな本棚へと近づく。本棚の目の前に着くと、目的の背表紙を探し出しルシフェルにまた投げた。  部屋が広いゆえにそれなりの距離があったが、投擲された本は綺麗な放物線を描いてルシフェルの手に収まる。 「そっちの本は最上級や禁術などの、一般人ならフィクションでしか見たことのないような魔法魔術を載せた本だ。そしてこれは、魔力エネルギーについての研究本。こっちは魔法陣の原理、そしてこれは――」  本棚からぽんぽん本を選び取り、後ろ手にルシフェルに投げる。ルシフェルは「わぁっ」「おっとぉ!」とか言いながらすべてを受け止める。  俺がその作業を終える頃には本棚の一部はすかすかになって、代わりにルシフェルの腕に本が積み重なっていた。 「おかしい」  最後に手にとった本は投げずに持ったままルシフェルを振り返り、俺はその台詞を再び繰り返した。 「俺はこれらの本を読まなくても、その内容を知っている。習わなくても学ばなくても、魔法が使える。それだけじゃない、魔力の仕掛けまで知っている」  言いながら、俺はルシフェルに手の中に小さな火を燈してみせる。  初級レベルの魔法に見えるが、決まった形のない火を掌に収まるほど小さいサイズに象るのは逆に難易度が高いのだ。
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