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そんな何の役にも立たないこと反芻していた俺だったが、目の前にあった光景にそのすべてが吹っ飛んだ。
「は……?」
目の前に広がっていたのは、俺の記憶通り黒い山々。
――では、なかった。
広がるのは青く広い、大空。
下を向けば、見えるのは白い雲。
その先の先に、海と、大陸らしきものが見えた。
……ふむ。
あたりを見回し、そんな様子を確認した俺はこう判断した。
どうやら魔王城は、俺の知らない間にラピュタになってしまったらしい、と。
「待ってくれよ、こりゃないぜ……」
俺は崩れるようにその場に胡座をかき、完全に素の口調でそう呟き頭を掻いた。
「俺が死んでから、この世界で一体何年の月日が流れたんだ? というか、一体何が起これば巨大な城が空を飛ぶんだよ……」
本当に飛行石でも仕込まれてんのか。
そんなことを考えながら感心も焦りも越えて呆れる俺とは裏腹に、ルシフェルは「うわ、すっげえ!」と歓声をあげてその壮大な風景に見入っている。
「マジすげぇ……、この城、飛んでたんだな! なぁ御主人様、昔からこうだったのか?」
「まさか」
俺は言って、途方に暮れる。
近くの街にでも行くつもりだったのに、これじゃどうしようもない。何故なら、単純な話地面に脚がつかない。
「いやもう、諦めて飛び降りる……か?」
魔王の身体なら、骨折くらいで済むだろうか。それか、魔法で身体を強化すればまだ――いやでも、うぅん。
そこでふと、頭に浮かんだ方法があった。というか、今まで気づかなかったことが阿呆らしい。魔法使って飛べば良いんだ。
右手を宙に翳し、俺を中心に半径一五十センチの範囲を魔力支配領域化する。これが、俺の知るこの世界の魔法の、基本中の基本。
わかりやすく言うなら、子供が自分の回りに線引いて「ここおれの陣地だから入ったらダメ!」というのと同じこと。
魔力支配領域――通称テリトリーに魔法陣を展開。
赤黒く光る魔力の線で直径三メートルの円が引かれ、その線に沿うようルーン文字が描かれる。その次に最初のものよりひと回り小さな円が浮かび、その円の中いっぱいいっぱいに幾つも折り重なったような五芒星。
「うわ、何これ! 魔法?」
「あぁ。その魔法陣から出んなよ」
ルシフェルにそう告げ、俺は翳していた右手を降ろして立ち上がった。
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