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「…………?」
足元に広がる魔法陣を見下ろし、俺はその違和感に眉を潜めた。たった今引いた魔法陣だが、何だかざわざわと蠢き、非常に不安定だ。
俺のコントロールが利いていないという訳ではない。だが、少しでも気を抜けばあっという間に魔法陣が解けてしまってもおかしくない。まるで大気のような目に見えないものが、魔力を掻き消そうとしているようだ。
……まぁ、気をつけていればこのまま使えるだろう。
そう判断し、俺はその魔法陣を床から一メートルほど宙に浮かせる。俺とルシフェルの身体も、その魔法陣が床の代わりになって一緒に浮き上がった。
「うおっ」
突然のことにバランスを崩したルシフェルが、その場に尻餅をついた。魔法陣からずり落ち、床に尻を強打したらしく顔をしかめている。
「気をつけろ、ルシフェル。それ、空でやったら洒落にならないぞ」
「痛てて……、了解」
ルシフェルが痛そうに尻をさすりながらもう一度魔法陣の上に乗ったのを確認し、俺は魔法陣を再び移動させ、魔王城の外に出た。
少し離れて振り返り、魔王城を見る。宙に浮いていることを除けば、それは昔と変わらない巨大な城だった。中世ヨーロッパよりもRPGゲームを彷彿とさせる外観。シンデレラ城を黒っぽい色で塗装した、といえば伝わりやすいか。
俺達が城から出てすぐ、正面の扉は勝手に閉まり、がちゃりと施錠された。魔王城は魔王(つまり俺)と繋がっているので、その魔王が去れば閉鎖される。俺が開けようとしない限りは開かない。
「ルシフェル、降りるぞ。気をつけろ」
魔法陣をゆっくりと降下させる。
雲を過ぎ、さらに下へと降りていく。遠くなっていく魔王城とは反対に、近くなってくる海。
と、それから二秒後のこと。
「――!」
一瞬にして、俺達を乗せていた魔法陣が消失した。
「うおぉっ、おお落ちるッ!?」
ルシフェルの悲鳴を耳に残しながら、俺は落下の危険よりも先にその魔法陣が消失したという異変に眉を寄せた。
訳がわからない。突然、魔法陣を構成していた魔力そのものが文字通り何の足跡も残さず消失したのだ。
そんなことは、はっきり言って理論上ありえない。魔力にも、質量保存の法則は適用されるのだ。こんな、跡形もなく消えるはずがない。
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