王立ギルド『開け胡麻』

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 地図も方位磁石も持っていない今、どちらに行けば良いのかなんてわからないので、とりあえず太陽と真反対に進むことにする。  まぁ時間と共に移動するので、太陽の位置はあくまで目安だが。 「そういやぁルシフェル、俺もおかしなことに気がついた」  木の根を跨いで歩きながら、俺は俺の横を同じようにして進むルシフェルにそう話しかける。 「さっき魔王城を出たときから、魔法が使えん。魔力を身体から出した途端、一瞬にして消失してしまう」  身体の中には、確かに魔力の存在を感じる。魔力を筋肉や皮膚に編み込ませ、身体強化をすることもできる。  だが、魔法陣を展開しようといざ身体から魔力を出すと、即座にその魔力は消えてなくなってしまうのだ。 「さっき魔王城から出るときに魔法陣が消えたのも、恐らくこれが原因だと思うが――原因がさっぱりわからん。ルシフェル、お前から見て何かわかるか?」  先程も言った気がするが、魔力にも『質量保存の法則』は適用される。  魔力は火にも水にも風にもそれ以外にも、実に多種多様に変化する元素、そう思ってくれればわかりやすいと思う。  変化はすれど跡形もなく消失するなど、完全に物理法則を無視しているのだ。 「いや、ごめん。わからね。そもそも魔力とか感じれないから、消えるっつっても理解できないっていうか……」  ルシフェルが眉尻を下げて困った顔をしたので、俺は「いや、ならいい」とこの話を切り上げた。  俺だって神の力はあんまり感じないし、それと同じことなのだろう。 「…………」  どうも、この世界は前世で俺が勇者のパーティにいた頃とは大分変わってしまったようだ。  俺はその事実に、わずかに眉を寄せた。  経験したことのある場所なのに、勝手がわからずに苛ついたというのが本音である。  俺は五十九回目の転生で、千年の寿命を持つエルフという種族に生まれたことがある。  その世界には人間もいて、俺は百歳頃に一時期だけ人間の街で暮らしていた。数十年ほどでエルフの里に帰り、以来しばらく人間の街には近づかなかった。  齢七百を超えた頃、俺は再びその場所を訪れ、そして愕然とした。  そこにあったはずの街は、俺が里で暮らしていた六百年の間に失くなっていて、ただそこにあるのはだだっ広い草原だった。
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