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時計がないため時間の感覚が曖昧だが、空の色や太陽の高さから言って今は昼過ぎだと思われる。
港があるのなら、日が沈む前にそこにつきたい。野宿は嫌だ。
「ルシフェル、走るぞ」
「え、走る?」
「ひとがいる場所が近くにあるなら、早めにつきたい。宿も探さなければならないし――ルシフェル、お前、天使なら体力には自信があるだろう?」
少なくとも、森の中や硬い馬車道を長い時間歩いてきても、ルシフェルが疲労を感じている様子はない。
「それに、俺の身体の限界も知りたいしな」
疲れていないのは俺も同じ。
魔王の身体でどのくらい走れるのかも確かめておきたい。
「ふぅん――オッケー」
ルシフェルの言葉の後、俺達はすぐに走り出した。
「…………」
一キロほど全速力で進んでみたが、疲労は一切感じない。まだまだ行ける。
ただ、思ったほどスピードが出ない。
多分、五十メートルあたり八秒弱。体力があるゆえにそのスピードは衰えないが、にしても遅い。筋力がないのか?
「なー御主人様、遅くない?」
ルシフェルはまだまだ余裕と言った感じで俺の横をついてきていた。
……ふむ。
「じゃ、スピードあげるぞ」
身体強化。
身体中の筋肉に魔力を編み込み、動きやすいよう強化していく。
さっきまではこれ以上速く動かなかった身体が、魔力による強化でその限界を引き上げられ動くようになる。
長い髪を靡かせ、疾走する。うん、速い。少なくとも人間の範疇は超えた。
「うわっ、いきなり速え!」
一瞬の遅れを取ったルシフェルが、そう叫んでからすぐにそれを取り戻す。
「まだいけるか?」
俺が問うと、ルシフェルは頷く。
「やろうと思えば、まだまだいけるぜ」
ならば本当の限界までやってみようかと思ったが、俺は馬車道の先に見えたものに脚を止めた。
止めた、と一口に言っても、ががががっとまるでバイクでドリフトするみたいな動きだったのだが。
「うおぉっ今度はいきなり止まる!?」
俺と同じような動きでルシフェルも走るのを止め、行き過ぎた分俺の元まで小走りで引き返してくる。
つかこの靴、何でできてんだ? こんなことして、傷ひとつないぞ。ルシフェルの靴もだ。魔王城から持ってきただけはあるか。普通じゃないな。
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