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「で、御主人様。何で止まったんだよ? もうすぐ街に着くとこだったのに」
ルシフェルの言う通り、道の先の先には街らしきものが小さく見えた。海沿いにあって、さらに船の数も多いことから見るに、港街なのだろう。
「だから止まったんだ。このスピードで突っ込んでみろ、敵襲かと思われるだろう」
少なくとも一般人だとは絶対に思われないはずだ。
「普通に歩いて行くぞ」
十分後、俺達はその街の中にいた。
入口には門番か何かがいるものかと警戒していたが、とくに何もなく街に入ることができた。
「うわっすっげえ。ひとがいっぱいだな……、俺、こんなの初めてだ」
元天使のルシフェルは、初めての人間の街に興味津々だった。きょろきょろとせわしなくあたりを見まわしている。
ルシフェルの言う通り、この潮風の吹く港街はひと通りも多く、かなり活気がある。イメージとしてはヨーロッパはの歴史ある港街――ファンタジー系RPGの港街を想像して貰えれば、多分それでほとんど正解だ。
ただひとつ気になるのは……、やはり俺がこの街を知らないと言うこと。三十一回目の人生で、このような場所は目にした記憶はない。
エルフであった時のように、世界に置いていかれた可能性が高いのかもしれない。下手に前の経験を引きずるのはよくない、か。
「あまり騒ぐな。目立つ」
子供のようにはしゃぐルシフェルを、そう言って宥める。
自慢じゃないが明るい金髪を揺らす中性的な美少年である俺と、燕尾服を着崩した美青年であるルシフェル。
自分で言うのもどうかと思うが、そんな俺達二人組はただ歩いているだけでも目立つのだ。あまり騒いで注目を集めたくはない。
「行くぞルシフェル」
出店で売られている林檎に興味津々なルシフェルにそう告げて、俺は賑わいの濃い方角へと歩きだした。
ここが神の言う通り剣とファンタジーの世界なら、ギルド、もしくはそれに類する施設があるはずだ。手っ取り早く金を手に入れるなら、そこで稼ぐのが一番だろう。
「えー……、うん」
名残惜しそうに、ルシフェルが俺の後を追いかけてくる。どうしても赤い林檎が気になるらしい。
「……金を稼いだら買ってやる」
瞬間、ぱっとルシフェルの顔が輝いた。
「本当!?」
「食いたいんだろ」
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