王立ギルド『開け胡麻』

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 ルシフェルは天使の肉体を持つゆえに食事は必要ないはずなのだが、まぁ娯楽と考えればルシフェルの気持ちもわからんでもない。  本人の反応を見るに、林檎を見るのも初めてのようだし。 「何処行くんだ?」  すっかり上機嫌になったルシフェルが、輝かしい笑顔で俺を見た。 「ギルド」 「ギルド? あぁあの、ゲームとかでクエストを受注する……」 「まあ……、そういうことだ」  元天使の認識としてはどうかと思うが、まぁ面倒くさい説明が不要なのは嬉しい。 「というか前から思ってたが、天使でもゲームとかするんだな。そこに吃驚だ」 「いや、普通はしねぇよ。俺が変わってんだ」  そんな話をしながら、俺達はどうやら街の中で一番大きな建物である立派な教会の前を横切り、その裏の通りにあったギルドの前にたどり着いた。  王立ギルド『開け胡麻(オープンセサミ)』。  そんな看板がかかっているから間違いない。  石造りのしっかりとした古い建物で、見たところ二階建て。入口は観音開きで、『開け胡麻』と書かれた褐色の暖簾がどっしり構えている。  店のネーミングに多大な疑問が残る以外、ほとんど問題はなさそうだ。 「ルシフェル」 「ん?」 「余計なことはするな」  ルシフェルに釘を刺し、俺は入口までの数段の階段を上りその暖簾を潜った。 「わかってるよ、もう」  拗ねたようにそう言いながら、その後をルシフェルがついて来る。  ギルドの中は埃っぽいパブだった。時間的にまだ客足は少なく、たくさん置かれた丸テーブルは三割ほどしか埋まっていない。  部屋の奥には壁の端から端まである掲示板があり、そこにはたくさんの紙切れが画鋲で留められていた。近づいて読んでみると、それらはすべてギルドに寄せられた依頼の資料だった。  とりあえず、掲示板の隣にある受付らしきカウンターへと足を運ぶ。 「……登録がしたいんだが」  カウンターに座っていたのは女性で、彼女は足元まである落ち着いた配色のローブを着ていた。見たところ、二十歳を少し超えたくらいか。  何かの書類に目を通していた女性は、緑の目でこちらをちらり確認し二枚の用紙とペンを差し出す。 「……こちらに必要事項を御記入下さい」  それだけ言うと、彼女はすぐに手に持った書類にまた視線を戻した。
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