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「まぁとにかくだ、……どうした?」
気持ちを切り替えてがばっと起き上がれば、ルシフェルが俺に半分手を伸ばしたような、奇妙な体制で固まっていた。
俺の視線に、ルシフェルはわちゃわちゃと慌てた様子で両手を膝に戻した。
「あ、いや、何もねぇよ! 別に!」
「…………そうか」
もしかして、慰めようとした、とかか?
それなら悪いことしたかもしれん。せっかくの厚意を無駄にしてしまった。
まぁしてしまったことは仕方がないと、俺はすぐに話を戻す。
「話は戻るが、さっき受付の女が言っていた通り、魔法使いの子供――つまり魔法適性のある子供は、魔法教育を専門とした王立ウィンクルム・エクセリクシ魔法魔術学院、通称『学院』で三年間学ぶことが義務づけられている。女曰く魔法適性があるらしい俺達も、この対象な訳だ。わかるか?」
「あ、あぁ――うん。オッケー」
ルシフェルもすぐに持ち直し、俺の話に耳を傾け始める。
「学院とやらに行けば良いんだろ? 新学期が始まる来月から。で、御主人様はどうするんだ? 行くのか?」
……そう、ルシフェルの言う通り、俺達には『行かない』という選択肢もある。というか、魔王が学院に行くこと自体ちゃんちゃらおかしいとも言える。
だが。
「俺達はこの世界がまだ理解できていない。魔法ですら、俺の知る物とは掛け離れている――学校という学び舎でなら、そういうことも頼まなくても教えて貰える訳だ。はっきり言って、学校に行かせて貰えるなんて願ってもないことだ」
「じゃあ、行くんだ?」
「そのつもりだ。けど、ひとつ問題点があってな」
「問題点?」
「あぁ」
俺はそこで一端口を閉じて、組んでいた脚を組み直し、左腕で頬杖をつきながら再び口を開いた。
「金だ」
国が最低三年間の就学を義務づける、とか言っておきながら、高額な学費はすべて負担しなければならない。
貴族なら造作のない額なのだろうが、こちらははっきり言って一文無しだ。
平民の子供のことを考えて奨学金制度もあるにはあるのだが、俺達はそれを利用することができない。奨学金を受けるための審査で、身元の証明が不可能だからである。
だがしかし。
「心配するな、ルシフェル。ついさっき、俺はその問題を簡単に解決できる方法を思いついた。とりあえず――明日にはこの街を出るぞ」
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