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「――御主人様。結局俺らって何処に向かってんだ?」
次の日の朝十時には、俺達はギルドのあった港街カルマールを出て、昨日通ったのとは真反対に伸びる馬車道をのんびりと歩いていた。
もちろん、ギルドカードは出発の際忘れずに受けとっている。
「この方面から言って目的地はコワンだと思われます、メートルリットル様。学院はコワンのすぐそばにありますから」
坦々とした調子で答えたのは俺ではなく、あのギルドの受付嬢であった女性だ。深緑の長い髪をたなびかせ、彼女は俺の右隣を颯爽と歩いている。
「ミッシレ様、そうでございますよね?」
「あぁ、その通りだレリーさん」
俺は頷いて、女性――アスセーナ・レリーの言葉を肯定する。
誤解のないよう言っておくと、彼女は俺達に同行しているわけではなく、ただ向かう方向が一緒だったというだけだ。
レリーの目的地は王都――今俺達が歩いている馬車道は、港町カルマールと学院近くのコワンを繋ぐ道であると同時に、王都とを繋ぐ道でもあるのだ。
そのため、先程から荷馬車が行ったり来たりしていてかなり人通りが多い。俺達のように徒歩の者とも、よくすれ違う。
昨日俺達が使った道とは比べれば、同じ馬車道なのにえらい違いだ。恐らく、あの道の先には大きな町がないのだろう。
「ところで、失礼ですがお二方は礼儀が少々欠けているようで……。普通、あなた方のような平民が貴族である私にそのような砕けた言葉遣いなど使わないものですが。学院に通うとはいえ、もう少し気をつけた方がよろしいのでは? そもそも、私はあなた方より年上なのですし」
貴族と平民を見分けるのは実に簡単で、その違いはローブやマントを着用しているかいないか――着用しているのは貴族、それ以外は平民だ。
だから昨日今日とローブを羽織るレリーはもちろん貴族。
貴族と平民の身分差は激しく、貴族が歩けば平民は無条件に道を譲るのが普通である。
だから、その貴族であるレリーにタメ口で話している俺とルシフェルは、かなり失礼にあたるのである。
でも当の本人であるレリーは、そう言いながらもとくに気分を害した様子はない。先程の言葉は咎めている訳ではなく、そんな態度は身を滅ぼすぞというただの忠告だろう。
まぁ、来月から貴族の巣窟とも言える学院に入学する俺達にはもっともな忠告だ。
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