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レリーの消えた空を見上げながら、ルシフェルが瞳をきらきらときらめかせる。
「すっげえ、空飛ぶ箒……、乗ってみてえなあ」
「多分お前は無理だな」
「ええっ、なんで!?」
ばっさりと否定すると、ルシフェルはショックを受けた表情でこっちを見る。
「堕天使は飛べないんだろ」
「そうだった……」
ルシフェルはがくりとうなだれる。
昨日の夜、暇潰しにルシフェル本人から聞いた話に寄れば、堕天使が『飛べない』のはあの神の決めた『絶対』。
箒だろうが魔法だろうが神の奇跡だろうが、神本人がそれを撤回しない限り、因果律的にルシフェルは飛べない。
「ところでルシフェル、俺はあの箒を見てわかったことがある」
そう言って、俺は立ち止まる。
「ん、何?」
俺が止まったので、ルシフェルもそれに合わせてその場で立ち止まり、きょとんとした目で俺を見た。
「どうやら、何か物を媒体にすれば」
言いながら、俺は履いている右の靴に魔力を通し、かんっと石畳の地面をその踵で打つ。
すると、踵を打ちつけられた場所を中心に、直径三十センチほどの小さな魔力陣が展開された。
「魔法は使えるようだ」
次の瞬間、その魔法陣から薔薇の花が大量に咲きこぼれた。
ちなみにだが、この場合あたりを魔力指定領域化する必要性はない。
そもそも魔力指定領域は魔力の操作をしやすくするためのもの、物を媒体にする場合、その『物』だけを指定領域化すれば問題ないのだ。
「……たんぽぽの予定だったんだが」
しかも一輪の予定だった。
何かを媒体にするのは慣れていないから、結構難しい。というか、まず七十回ほどの人生という長い長いブランクがあるし。
「しかも止まらん……」
魔力を込めすぎたようだ。
あまりにボロボロと薔薇が大量生産されるので、もう一度踵で魔法陣を蹴ってそれを止めようとする。するのだが、薔薇が多過ぎて魔法陣の中心がわからない。
魔法陣の上にある邪魔な薔薇を蹴飛ばし、やっと中心を発見したと思ったら、そこにまた薔薇が咲きこぼれて見えなくなってしまう。
「あぁもう……」
苛っときたのでそれらしき場所に適当にげしげしと踵を打ちつけていたら、うまく中心に触れたらしく薔薇の生産は終了した。
やっと止まった、とほっと安堵して魔法陣の消えた地面から顔をあげる。
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