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中に入ってみると、さらにそこはカルマールのギルドとは別物。
カルマールのギルド内は酒場となっていたのに比べ、こちらは酒の香りひとつせず、まるで何処かの役所もしくは事務所のようだった。
休憩用の机や椅子はあるものの、酒類を嗜む者は見られない。
左右の壁には巨大な掲示板が貼られ、カルマールと同じように依頼の書かれた紙が留めてある。
奥に並ぶのは、受付と言うより窓口。
よっつ並んだ窓口にそれぞれ受付嬢が待機していて、そんな彼女らにギルド員達は掲示板から取ったであろう紙と自らのギルドカードを差し出していた。
どうやら、ああやって依頼を受注するらしい。
「どうするルシフェル。お前、どんな依頼がしたいんだ? 今なら希望を聞いてやらんこともないぞ」
右の掲示板の前に立ち、俺は後ろに控えたルシフェルにそう言う。するとルシフェルは、意外にも少し困ったような態度を示した。
「どんな依頼って言われても……、俺はべつに御主人様が選んだのなら何でもいいぜ? 俺、優柔不断だから選べねぇよ」
「……優柔不断?」
その言葉に、酷く違和感を覚える。
いや、確かに彼の好物をふたつ並べて、「どちらかを選べ」的な質問をすれば、彼は優柔不断な対応をするかもしれない。
でも今まで俺が見てきた限りでは、ルシフェルは優柔不断な面はあれど、歯切れの悪い奴ではなかったはずだ。
まぁ、俺とルシフェルはお互いを知り尽くすほどに長い付き合いという訳ではないし、むしろ付き合いはかなり浅い方――知らない一面があったとしても、べつにおかしくはないのだが。
「ふぅん。なら、俺が勝手に選ぶ。後から文句は言うなよ」
「はぁい、御主人様」
途端にいつもの明るい表情をするルシフェルに僅かな疑問を感じつつ、俺は掲示板に貼られた紙に目を通していく。
「ん」
これなんか、どうだろう。
学院裏「北の森」の整備――主な仕事は、学院の敷地内である北の森に紛れ込んだ危険な魔法生物の討伐。依頼人は学院長だ。
場所も近いし、俺の考えた高額な学費の対策もやりやすくなる。
ただこの依頼を受注するにおける問題として、依頼の危険度が『?』と曖昧なことがあげられる。
ギルドカードを受け取った際に受けた説明によれば、依頼の危険度はギルド側が調査の末に定めるもので、基本的には星の数で表されるらしい。
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