神様のお茶会

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 転生の瞬間は、何回経験しても――百回経験しても慣れなかった。  人間の魂としての賞味期限をとっくに過ぎてしまった俺の魂が、真新しい肉体に汚ならしい腐汁を零しながらぶち込まれる。  うえっ。  車酔いみたいな気持ちの悪さ。  真新しい肉体は誕生の瞬間から赤ん坊ではないようで、俺は気づけば素足で冷たい床を踏んでいる感触があった。  生まれたときから赤ん坊ではないということは、少なくとも人間じゃねぇな。  そんなことを考えながら、目を開ける。  視界に異常はない。眼球も視神経も、正常に作用している。  新しい首をぎこちなく回して見回してみると、そこは中世ヨーロッパの宮殿の、謁見の間のような場所だった。  イメージしづらいなら、RPGゲームの魔王城、その最深部でもいい。いやむしろ、そっちの方が近いかもしれない。  黒と白の大理石が並べられた床。  天井からぶら下がった豪華なシャンデリア。  左右の壁には太い円柱が等間隔にいくつも並び、さらにこの部屋のど真ん中をレッドカーペットが走っていた。  レッドカーペットの奥にあるのは、誰もいない玉座だった。  状況を確認し終わって、俺はやっと自分の身体に意識を向ける。  まず気がついたのは、足元まであるぐりんぐりんカールした金髪。量も多く、鬱陶しい。豊かな金髪っていうのは、多分こういうのを指すのだろう。  俺は今何故か素っ裸で(いやまぁ、誕生したときから服着てるのも変だが)、見る限り肌は白い。かなり色白だ。  しかし爪だけは別。  手のそれも足もそれも例外なく、マニキュアを塗ったかのように真っ黒だ。  手足は細く華奢で、多分俺の見た目は人間でいう十四くらいの子供だ。  そこまで見ると女の子のようだったが、しかし股間にはあるので、どうやら俺は男だった。女みたいだといじめられそうだ。  最後に掌でぺたぺたと触って確かめる限り、顔にも人間と違う点はない。目があり、鼻があり、唇がある。まぁ自分で自分の顔は見えないので、何とも言えないんだけど。  とりあえず、歩くか。  そう思って脚を前に出した途端、俺は何かに引っ掛かって派手にこけた。 「…………」  何なんだ。  大理石の床にぶつかってもほとんど痛みを感じないことに疑問を抱きつつ、俺はいったい何に躓いたんだと振り返る。
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