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由良は、驚きつつも頷いた。巽から演奏を頼まれるなど、光栄な事だった。
由良は、大慌てで自分の手提げから楽器を取り出す。
「その手提げ、由良は学校帰りか?」
「あ、はい、そうです。川向こうの学舎に通っているから……」
「そうか。学校か、良いな。俺は、ついぞその様な機会に恵まれなんだ」
「北斗様……」
語る北斗の目に、由良は僅かな寂しさのようなものを見た。
弓の様に反った木造りの持ち手に数本の弦を張った楽器、鈴弓を構える由良。
両手の指先には、弦を弾く「楽刀」という指当てを嵌めていた。
楽刀で軽く弦を撫でると、鈴を転がしたような澄んだ音が鳴る。
由良が北斗を見ると、北斗は頷いた。それが始める合図だった。
由良の指先が、鈴弓の弦を掻き鳴らす。
そこから生まれた音に、北斗の歌が混ざり溶け合い、天高く響き渡ってゆく。
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