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ふと蘭丸が言った一言に頬を染め、そう聞き返した。 へえ、と蘭丸は何でも無い様子で柔らかく笑って返す。 言われて一人で赤面しているのが馬鹿らしく思えてくるくらい、平然と穏やかに。 流石は遊郭の置屋主人というべきか。 『可愛い』などという言葉は言い慣れている様子だ。 そんな様子に、今度は慶喜がからかうように笑う。 「罪つくりだねぇ、蘭丸」 「?  何がどすか、慶喜はん」 「別に。何でも無いよ、独り言」 とても楽しげな彼の様子に、一体何なのだろうと首を傾げる。 だがすぐに気にするのを止めた様子で、蘭丸は千歳に目を向けた。 「すぐあんさんの先輩にあたる姐さんを呼んでくるさかい、少ぅし、待ちより」 「は……はい」 端整な顔で目を細めどこか妖艶とも言えるような微笑みを浮かべて言う蘭丸を前に、千歳は頬を赤くして頷くだけ。 その他の動きを封じられたかのように。 身を翻して置屋へと入って行く背を、千歳はただぼうっと見つめていた。 やがて戻ってきた蘭丸が引き連れて来た女性を見て、千歳はまた頬を赤らめることになる。
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