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「そちらの方は?」 「ああ、彼は稲守侘助さん。壬生浪士組の新しい隊士ですよ」 「今日はコイツの歓迎会のつもりで来たんだ」 二人が紹介すると、紫太夫はまたにっこりと笑う。 それから侘助に向き直り、畳に手をついて優雅に頭を下げた。 「お晩どす、稲守はん。  わては紫いうもんどす。どうぞよろしゅうお頼申します」 「…………。  うん、よろしくー」 ほんの一瞬、彼女の笑みの中に僅かに敵意を見た気がして、侘助は目を細める。 だが、すぐに先と同じ、何を考えているのか読めないような笑みに戻った。 口元を扇子で覆い、紫太夫はまた目を細める。 「本来やったら稲守はんには、太夫として、正しい順序でお相手するべきやろうけど……今回は、沖田はんと土方はんに免じて」 くすくすと笑いながら、彼女は言った。 太夫とのお座敷には順序があり、一番始めは太夫は口をきかず、二回目に話が出来る。 そして三回目に、閨(ネヤ)を共に出来る、つまり解禁ということになるのだ。 「怖~い篤宮(アツミヤ)はんや番頭はんには、内緒どすえ」 「良いのか? そんなこと言っちまって」
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