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けしかけるように言った土方の言葉にも、紫太夫は優雅にくすくすと笑うばかりだ。 どうせ元々、この人数を相手に閨に入ることは無い。 何より紫太夫は島原一の遊女と呼ばれる反面、誰とも閨には入らないことで有名だ。 太夫ともなれば、閨入りを拒むことさえ許される。 それくらい、特別な遊女。 彼女の言った“篤宮”とは、広い島原の敷地の中でも紫太夫の属する置屋の主人。 篤宮蘭丸(ランマル)のこと。 普段は穏やかで優しい性格をしているが、仕事には厳しい。 初めて逢った相手に対してまで気軽に話していれば、怒られることはほぼ必至だろう。 とにかく、そんなこんなで四人、談笑をしたり、紫太夫が舞や三味線を披露したり、紫太夫と沖田で真剣にお座敷遊びを競ったりして過ごした。 「また来とくれやす」 夜中、日が変わる前にお座敷を出た後、紫太夫は三人を島原の大門まで見送る。 そして三人の背が見えなくなった頃、彼女も大門に背を向けて来た道を引き返していった。 「“稲守”侘助…………ね……」 そんなことをふっと、何やら意味深に口元だけで小さく呟いて。
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