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数日後、真昼だというのに篤宮の置屋『森屋』に一組の男女が訪ねてきた。
「誰か居るかい?」
端整な顔立ちをしていながらも何だか軽い印象を受ける男性。
彼が声をかけると、置屋の中からまた別の男性が顔を出す。
「おや、慶喜(ケイキ)はん。
……珍しおすなぁ、お連れはんが居てはるやなんて」
置屋から出て来た男性はそう言って、手にしていた扇子を閉じたまま口元にやり優雅に笑った。
その笑みには、どこかからかいの色も見てとれる。
慶喜と呼ばれた男性──一橋(ヒトツバシ)慶喜は、それに気付いたのか苦笑した。
「そう虐めないでおくれ、蘭丸。
そんなことより、彼女のことなんだがね」
「っ……あのっ、私、千歳(チトセ)っていいます」
ふっと笑みを柔らかくした慶喜が共に連れていた少女を示すと、少女・千歳は慌てた様子でぺこりと頭を下げる。
そんな千歳を見て、男性──篤宮蘭丸は、すっと目を細めた。
「挨拶に来た……わけではあらへんようやなぁ」
「相変わらず察しが良いね」
言った慶喜は、満足げに笑っていて。
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