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卒業の日の教室は淋しさと嬉しさとが入り混じった、妙な空気が漂ってた。
「倫子付けたげる」
バックを後ろのロッカーにしまい、席に戻った倫子のところへ親友の萌(もえ)がピンクの造花で出来たコサージュを付けに来てくれた。
「これさ、圭ちゃんのママが卒業生みんなに創ってくれたんだってぇ。すごくない?」
「だって月子さんフラワーアレンジメントの先生だもん。うちの飾りっ気の無い男みたいな母親とは大違い」
あたしの母親はショートカットで背が高くて、スカートを履いてるのを見たことない。
それに引き換え、圭の母親は天然パーマだというフワッフワの長い髪をサイドに緩く束ねている。透き通るような白い肌に、憂いを含んだ黒目勝ちな瞳が長い睫毛から何とも言えない色気とゆ~か世の中の男達の胸をざわめかせる何かを放っている。
あたしは、圭の母親を『圭のママ』や『おばちゃん』などとは呼べなかった。
歳はうちの母親と同い年らしいけど、あたしは初めて出逢った幼稚園の頃から彼女を『月子さん』と呼んでいた。
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