第一章 道をはぐれた騎士

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 数年前はイングランドの“王に選ばれし騎士”の中の最年少の騎士として戦った彼も今では“失われし七人――ロストオブセブン”のうちの一人となっている。  それはかつて王に選ばれてフランスとの戦争に駆り出され果敢に戦ったすえに戦死した者達。勇ましい騎士達に対して尊敬の念と哀悼の念を抱いた人々が彼らを偲ぶ為につけた称号だった。  が、失われた七人は実際には“クリスのように”逃亡した者、フランスとの戦争に関して国に意見して処刑あるいは暗殺された者が殆ど。  尤も、七人全員の結末を知っているわけではなかったから、戦死した者もいるかもしれない。例えば、激戦の繰り広げられる戦場に放り込まれるとか。  その「シナリオ」の内容を知る前までのクリスは正義感に溢れる血気盛んな騎士の一人に過ぎなかった。だが、だんだんと周りの上官や国王のする事に信頼を失い、心の内にあった炎もしぼんだ。今ではかつての姿など見る影もない。  幼少の頃にあこがれた騎士、剣を授けてくれる乙女 、知恵を授けてくれる白魔法使い。そんなものはまやかしでしかなかった。  例え、彼がイングランドの元騎士であるとここで訴え出たとしても、良く出来た偽者として笑い飛ばされれば運がいい。本物とわかれば改めて死んだ事にする為に処刑されるかもしれない。だから、彼は黙っている。そうして今までひっそりと生きてきた。  彼が第二の人生を歩む場所として、この『地の果ての村』を選んだのは、ここが生まれ故郷であったからだけではない。身を隠すのにうってつけであったからだ。何しろ、ここは他の地方とは違う独特の文化と言葉を持っている。勿論英語を話す者もいるが、訛りが酷い。こんな中で人を探すのは至難、国外に逃げた犯罪者を探し出すような物だ。  最近は領主の力が弱まり、国王の力が及ぶようになってきているので今後どうなるかは、神ならぬクリスにはわからないが……。  
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