4787人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ、ケンタ。
シャンプーの在庫がさぁ…」
ケンタの大親友で職場での不動の右腕になっているハジメが、ケンタに朝一番で声を掛けてきた。
ここは、ケンタがチーフを務める大きな美容院。
従業員の美容師だけで二十人を越える、都内で金看板を上げる一流の美容院だ。
経営はオーナーとその息子の店長がしているが、ケンタは実務の最高責任者のチーフとして、もう十年以上もバリバリ働いている。
「八本。
あと、マロンの3番も発注しといて?」
レジのチェックをしながら、ケンタが流れるようにハジメに指示を出す。
業務に関する購入は、オーナー、店長、チーフのケンタ、そしてハジメしか出来ないようになっていた。
経営は店長派。
実務はチーフ(ケンタ)派。
そんな派閥が出来てしまう程に、大きくて人気の一流の美容院だった。
ケンタとハジメは、美容学校からの大親友。
今では、その一流店の実務派の双璧として派閥を率いるだけの実力を発揮している。
「ケンタ…?」
元から気弱なハジメが、発注書を手にしながらケンタに言葉を掛ける。
「ん?」
お肌ツルッツルなケンタ。
だから、ハジメがため息混じりに言う。
「あんま…、ジンくんに…無理させるなよ…?」
すると、ケンタが吹雪のオーラを背負って絶対零度の微笑みを浮かべた。
「ジンの事が…、そんなに気になるの?」
ここでは簡単に略すが、真正・不思議漫遊記の初頭に書いた通りに、一度「ひょっとしたら…ハジメも…ジンの事が…」などと笑っちゃうような疑いを持ったことが有るケンタ。
未だに…
【ジンの周りの男なんて死に絶えてしまえランキング】
👑一位👑:ガン
〓二位〓:景富
🔔三位🔔:ハジメ
ケンタの視線が、途端に鋭くなる。
ジンは仕事にプライベートは絶対に持ち込ませないタイプだが、
ケンタは私生活に仕事を絶対に立ち入らせないタイプ。
だから、たとえ大親友のハジメだっとしても、ケンタは妻を誰にも盗られるもんかと身構える。
………無自覚なままに、無駄な闘いを作ってしまう盲目な愛の新郎だった。
最初のコメントを投稿しよう!