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ジンが働くファミレス。
「田宮さーん」
左手のトレイに食器を乗せて、右手にも何枚もの皿を持ちながら、華麗な身のこなしで厨房に颯爽と入ってきたジン。
まるで踊るかのような、滑るような美しい動きで鮮やかに仕事をこなしていくジンに、アルバイトの一人が声を掛けた。
しかし、ジンは全く反応しない。
「……………田宮さん?」
「ぁ…。付け合わせの在庫…足りるかな…?」
「主任~!」
「ん?なぁに?」
役職で呼ばれて、やっと反応する愛の戦士。
「………やっぱり、まだ新しい名前に慣れてないんですね…(汗)」
「ぁ…。ご…ごめん…」
仕事中は普段のオネエは少し緩和される。
「六番のテーブル、セッティングしてきて?」
ジンが別の仕事をしようとしていた他のアルバイトにサッと的確な指示を出しながら、声を掛けてきたアルバイトに振り向いた。
「で、どうかしたの?」
「あ…あの…。来週の土曜…──」
「はいっ!却下!!!」
「∑∑えぇっ!?
まだ…何も言ってない…──」
「んじゃ、来週の土曜に急に用事が入ったのでシフトを休みに変えてください…って話以外なら聞こうじゃないの…」
「…………………ぅぅ…(泣)」
「んーもぅ…。(溜め息)
先月も二回、希望シフトを変えたでしょ?
そんなんじゃ、信用できなくてシフトに入れられなくなるよ?」
「ク…クビ…とか…?」
「まさかそんな事はしないけど、週に二日ぐらいしか入れてあげられなくなるってこと。
本当に休まなきゃならないなら、そのくらい覚悟を決めて休める理由か、もう一度考えてきなさい。
その上でやっぱり休むしかないって思うなら、その時に話を聞くから。
仕事にも慣れてきて、少したるんでるよ?
気を入れ直しなさい。
世間さまからお金をもらうことを、なめんじゃないよ?
あぁ。あと、付け合わせの補充しといて」
バシッと言い置きながらも、一瞬も動きを止めずに仕事をテキパキこなしていく敏腕主任は、また颯爽とフロアに戻っていった。
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