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台所に入るのは二ヵ月ぶりだった。
だが、照明に反射する包丁や油汚れが一つもないクッキングヒーターなど、カイが毎日掃除しているためとても綺麗な状態が保たれていた。
『ソレナラ出来マス。モシカスルト、卵腐ッテイルカモ知レマセン』
冷蔵庫の取っ手に手を伸ばした雄一に、カイが申し訳なさそうに言った。
「マジかよ! って、割れてない卵は無菌状態だから腐りはしないはずだけど……不安だから臭いを嗅いでみよう」
雄一は、卵を割って臭いを嗅いで咽そうになりながら呟いた。独特の刺激臭が彼の鼻を付く。
すぐに全部捨てた。
他の食材も缶詰め以外は、全部そうだった。瞬間的にカイを怒鳴りそうになったが、仕方ないとすぐにあきらめる。
人口知能が搭載されていないカイが、賞味期限の切れた食べ物を捨てるなんてことはないのだ。彼は冷蔵庫を開けたまま、目頭を押さえた。
『雄一様、パン、カビテマス』
「ハハハッ、今日は我慢だな…また帰りに買うか」
雄一は、呆れを通り越してもう笑ってしまった。
『今カラ僕ガ買イ二行キマショウカ?』
「あぁ、ありがとう。今、お金を…はい、一万円」
気持ちを切り替えた雄一は一端、自室に戻って財布から、お札を取り出してカイに渡す。
『分カリマシタ』
カイはお札を受け取ると胸部を開き、中にお札を入れて玄関に向かった。
「出来るだけ急いでくれ」
雄一は早口でカイに言う。
『了解シマシタ』
カイも早口で返して、家から出て行く。
その直後、雄一のケータイが突然鳴った。
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