41人が本棚に入れています
本棚に追加
「さてさて。飯屋……飯屋っと」
リクが歩きだそうとした、その時―
「ちょっとどいて! みんなどいてー! ああもう邪魔!」
リクの前方から、全速力でこちらに向かってくる人影が見えた。人影は人と人の間を器用にすり抜けながらも、かなりのスピードで走っていた。
人影は大声をあげて、無理やり人混みをかき分けていく。
「めしーめしー」
だが、リクはそんな人影に気づいていなかった。左右を交互に見ながらふらふらと歩いていた。依然鳴り続ける腹の虫のせいで、周りの音をあまり意識して聞いていないからかもしれない。
「はいはいはい! ごめんね! ちょっと通して!」
人影もかなり注目されるようになり、周りの人々は道を開けるようになった。そのせいで、人影は更に走るスピードを上げていった。
人影と少年の距離は、すぐそこまで迫っていた。
「めしやーめしや……」
なぜかリクはイライラしていた。まだ100メートルも歩いてないのに、飯屋が見つけられずに苛立っているらしい。虫の音がいつもよりヒドいのもリクを余計に苛立たせている一つの原因だった。
「ああゴメンナサイ、ゴメンナサイ! 今急いでるから!」
謝罪しながらそれでも全速力で駆け抜ける人影。既に少年との距離は数十メートルに迫り―――
「あああ! どこにあんだよ飯屋!」
「ちょっとアンタどいて!」
とうとう我慢切れのリクが大衆を気にせずにブチ切れた。別に誰のせいでもないというのに。
そして、人影は目の前で立ち止まっているリクに怒声に近い声で避けるよう命じたが、耳には入っていない。
「ちょ―――ぶつかる!」
急に方向転換しようとするも、全速力で止まることを知らない人影の足は、コントロールが効かずにリクへ向かう。
最悪なことに、急に止まろうとした人影は、足がもつれてしまって体勢が前方に傾いてしまった。
ドン!
そして、リクと人影は予想通り、物凄い力でぶつかり、威力を吸収できなかったリクは、人影に押し倒されるように、後方に吹っ飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!