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...っ!...
あの人が、必死に名を呼んでくれていた。
その声は、震えている。
愛しさに胸が熱くなる。
ずっと前に、心の奥底にしまいこんだ切ない想いがあふれてくる。
幻、だろうか。
でもはっきり聞こえた気がするのは、願望だろうか。
そんなにも、求めていたのかと、自分の気持ちの切実さに苦笑する。
人は追い詰められないと気付かないのかもしれない。
長い間、強い気持ちで押さえつけていた本音が迫り上がって、のどを切り裂くかのように熱を持って膨張している。
逢いたい。
逢いたい。
そう思って声のする方へ頭を傾けようとした。
目を開けると、最初夜空が見えた。
星が瞬きながら見下ろしている。
右手がとても重くて、体は痺れたように動かなくて、頭がぼんやりしていた。
後頭部に生暖かいものを感じて、自ずと理解した。
不思議と痛みは感じない。
最期だから、いいかな...。
ぼやけた視界の端に面影を見つけて、胸が痛いほど願った。
神様、ほんの少しだけ、目を瞑っていて。
見なかったことにして。
自分に出来ること、精一杯やれたと思う。
だから、もう一度だけ。
...逢いたい...。
...触れたい...。
夢でもいいから。
近くに感じることを...、許してください。
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