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「かわいくない!カワイクない!カワイイくないよ!アタシまじ死んじゃえ!ぶっさいく!!」
思わず美鈴は化粧水の瓶を机に叩きつけた。
びしり。
鏡がものをいった、そんな馬鹿な!
そうではない、化粧水の瓶が跳ねてぶつかり、お気に入りの雑貨屋で美鈴に一目惚れされたばっかりの幸せの黄色い鏡さんはこの部屋に来て早くもひびが入ってしまったのだ。
美鈴ははっと我に返り鏡に可哀想なことをしたと彼の傷痕をなでながら後悔したが、それでも彼女の怒り、そして嫉みは収まらなかった。
(仕事に行く時間だわ)
彼女はいつも独りきりの1Kの部屋に化粧品やらドライヤーやらをぶちまけたまま外に出た。
江藤美鈴 28歳
独身である。
福岡氏中央区の商業施設カナルシティにある女性用の高級靴売場「シャンパーニュ」に勤務。
いわゆるアパレル業界
華やかなようであってその舞台側はオンナ同士の闘い
修羅場のようである
仕事着がすべて私服
流行を少し先取りした高いセンスが求められる世界
同じ服なんてとんでもない
そして安い服、安いカバンなどで出勤しようものなら即同業他社女性陣の玩具
つまりはランチタイムの無駄話のネタにされることだろう
(キライキライ・・オンナの世界マジだいっきらい!)
美鈴は心底そう思いながらも陰でコソコソ馬鹿にされるのが嫌で、決して高くはない給料の中から自分のプライドを守る戦闘服を購入するのであった。
(ばっかみたい・・)
そんなことは美鈴にとって十分いや千分も万分も承知である。
それゆえに愚かしい一部の女子ルールに従わざるを余儀なくしている自分にも激しい嫌悪感を抱いていた。
若い頃はけっこう容姿に自信があった。
そう若い頃は・・。
小学生の頃から少し飽きてしまうくらいラブレターをもらえば自分の器量の良さに気付くものだ
高校では学年で一番格好よかった男と付き合った
案外つまんなかった
モテる男に限って自分の自慢話しか話さない
彼女は自分の話を聴いて欲しかったのだ。
大学時代は貧相な文学青年と卒業までの18ヶ月だけ付き合った。
彼は思えば彼女の一番の理解者だったと思える
よく話を聴いてくれた。
風邪で寝込んだ時一晩中傍にいてくれた。
ただあの時、彼女は未来の自分が怖かった。
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