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優しい男には違いなかったが将来はおろか明日の命さえ怪しい病弱な男に自分の生涯を預けることは出来なかった
彼の名字か名前を見聞きすると少しだけ胸が痛くなる
社会人になっても男からは綺麗だと言われた
ただ彼女はほんの少し、ほんの少しだけわがままだった。
いつかこんな私にも安定した職を持っててなるべくイケメンで私のわがままを聴いてくれる王子様が。
割と現実は厳しかった。
一人、また一人と手ごろな男を捕まえて片付いてゆく友人たち
「美鈴はカワイイからすぐイイヒトみつかるよ~」
友人のそんな言葉に内心は当然よと思いながら1年、また1年。
お気に入りのナタリーインブルーリアの新曲が5年も前のお古になっていた
そして彼女の容姿にも陰りが見えはじめた
23、4の頃は天神を歩いていたら1日に3、4人
多い日は10人から声をかけられたこともある
それが歳を経るごとに3日に1回、3ヶ月に1回
今では最近いつあったかとんと思い出せなくなった
(私のイイヒトはどこにいるの?)
(ねえ?幸せ、幸せってつまりなんなのよ)
仕事のストレスだろうか
加齢によるものだろうか
自分の魅力が社会的に通用しなくなっていることに気づいたことが急に彼女を寂しくさせた
その苛立ちが、嫉妬が彼女の幸せの黄色い鏡にひびを入れたのだった。
そして彼女は男性に大して次第に臆病になった。
そんな彼女の休憩時間である
他の女性に化粧を必死に直してると思われたくないからトイレの個室で化粧直しをしていた。
同じ女の私でもうんざりするような強い香水の臭いが立ち込めている
ざわざわ話声が聞こえてきた
同業者の連中だ
向かいの宝石店ルカか?
レディースのミストラルかしら?
ルカだ
「あ~しんどい~、ねぇチカちゃんさ~チャンミォンボのチケット取れた?」
「いえ~取れませんでした~~彼氏のコネ使って再チャレンジします~」
「あ~そう、私の分も出来たらお願いしてね~いけたらいく~あ!口紅違うの持ってきた~まじサイアク~」
「メイクって今日の気分と違うのだったらやる気起きないですよね~」
「そういえばさ~向かいのパーニュのツボネ~」
美鈴ははっと息を止めてコンパクトを握り締めた
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