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女は無言で、ただこっちを見ている。
考え事でもしているのか……どうでもいいけど気まずい。
「ね、ねぇ、みっつんみっつん!!」
「……何」
小声で話しかけてくる紘稀につられて俺も小声で話すと、紘稀は泣き出しそうな顔でどうしよう、とか言ってきた。
「……ほんとに、」
どうしようか、と言おうとした時には走り出していた。
……俺が。
武器である扇子を取り出し、女の後ろから飛び出してきた魔物に風の魔法を浴びせる。
とっさだったから、俺も何があったのかよくわからなかった。
ただ、声より体が先に動いていたんだ。
「え、ちょ、ミツ!?」
「………………」
紘稀は慌てた様子で俺のところに走ってきた。
女は無言で振り返り、またもや俺たちをジッと見ている。
どうやら魔物に気づいていたのか、さっきより距離が遠い。
「ミツ、大丈夫!?」
「あ、あぁ、大丈夫……」
「……助けて、くれた?」
紘稀の言葉に頷くと、黙っていた女がまたもや首を傾げて聞いてきた。
「あ~……ちょ、ごめん。とりあえずこいつ倒しとこっか~……」
女の質問にどう答えたらいいか迷っていると、苦笑い気味に紘稀が頬をポリポリ掻きながら、さっきの魔物を指差した。
振り返ってそいつを見てみると、俺の攻撃で傷をおってはいるものの、軽傷だった。
こちらを見て……って、睨まれてんの俺か。
ギリリリリ……と威嚇してくるコオロギみたいな魔物。
「……お前だけで倒せるだろ、たぶん」
「ちょっとちょっと~、仕掛けたのはみっつんなんだからね?」
投げやりに人任せ発言をすれば、紘稀は自分の武器のドでかいハンマーを俺に向けた。
「……あー、ハイハイ……」
俺はため息をついて立ち上がり、わざわざ待ってくれているらしい魔物に身構えた。
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