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もうすでに、この風景は僕にとって、日常茶飯事のものになってしまっている。
「ふん。私に勝とうだなんて、統計数論的にほぼ100パーセントの確率で、無理ですよ」
「あらー、威勢の良い犬の遠吠えですこと。良いですわ、その面を吠え面にしてあげましょう」
方や眼鏡をかけ、黒いスーツをピシッと着た、高身長細身、黒い短髪のキリッとした男。
方や眼鏡はかけていないけどコンタクトをはめ、スレンダーな体をより強調させる少し大胆な服装をした、銀の長髪の凛とした少し低めな女。
この二人の火ぶたが今、切って落とされようとしている。
職員室の中で。
゛今回゛の争いの発端は、服装について。
職場なのだから、しっかりとした服装で来いと、数学教師が国語教師に言ったのが切っ掛け。
僕が着任する前から二人は犬猿の仲らしく。すれ違う度に、睨み合っていたのだ。
そして、数学教師が我慢に限界を感じ、戦いを選んだ。
その申し出に、国語教師は物語のように、白い手袋をわざわざ持参して、それを数学教師の足元へと放り投げたのだった。
所謂、喧嘩上等。
後ろには、二人の決闘を何人もの生徒が見物しに来ている。
「それでは、良いですか?相手へのダメージは、限度を越えてはなりません。
その辺りはしっかりと、わかっていますね?」
そろそろ定年近い教頭が、二人の間に入り、二人の顔を見上げる。
数学教師も国語教師もお互いに頷いた。
「よろしい。では、はぁぁああじめぇえええ!!」
さて、始まってそうそうなんだけど。何故、こんなことが行われているのか、説明しよう。
始まりは。と言うよりも、僕がこの学校の変常のことを知ったのは、ここに着任してからのことだ。
「始めまして。体育の教師をやらせてもらいます、高梨 燕(タカナシ ツバメ)です。よろしくお願いします!」
職員室の、一番前。皆から注目を浴びるにはうってつけな場所で、俺は頭を下げると、皆から拍手が起きた。
うー、緊張するー!
「えー。高梨君は、なったばかりの新米教師です。この厳しい世の中、この学校に来たのも、何かの縁でしょう。
彼が立派な一人前の教師になれるよう。
そして、彼の勉強のため、これまで以上に教師諸君には、奮闘していただきたい!」
『はいっ!』
40代半ば辺りの若目な僕の隣にいる校長の一喝に、職員全員が声揃えて返事をした。
うっわー、凄く良い返事だ。教師への教育が行き届いているんだなー。
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