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他学科のメール相手の男の子の名前は「ユウト」といった。ある日、そのユウトが新入生の合宿の日、ゆりは勇気を出して電話をかけてみることにした。それまではメールしかしていなかった。ユウトの電話帳を開いて発信ボタンを押した。
トゥルル…ベルが鳴る。切ろうか、迷っていた。どうして私は電話なんてしているんだろう?話すことなど何もない。
ガチャ『はい』ユウトが出た。
初めての電話だというのに、彼はとても冷静だった。ユウトは忙しいようで、出てくれてすぐに『ちょっと待って』と言われた。班のメンバーと話し合いをしている声が漏れて聞こえてきた。初電話はたった数分で終わった。
しかし、ゆりにはユウトの優しさが伝わってきた。今でも何故だかわからないが、ゆりは数分の電話で恋に落ちたのだ。初めて恋を知った。初めて、絶対にこの人を傷付けたくないと心から思った。そして彼に何かあったら、自分が代わりに犠牲になりたい!とまで思えた。
何度かメールやデートを続け、ユウトとゆりは付き合うことになった。至福の時だった。きっとゆりの人生で1番幸せな時だった。生まれて初めて心が満たされた。もう何も必要なかった。
ユウトは、いわゆる九州男児だった。シャイでぶっきらぼうで、今まで女の子に対し『好き』などと口に出したことはないという。ゆりもそういうのは苦手だ。
しかし、付き合い始めの頃、デートの帰り道、ユウトがゆりに向かって『好き』と口にしたことがあった。そのあと、『俺マジかっこ悪りぃー。でも、言いたくて仕方なくなった』と反対側を向いて照れながら笑っていた。
ゆりも勇気を出して「私も」とつぶやいた。
ユウトを心から愛した。ユウトのためなら何でも出来ると心から本気で思った。
しかし、出逢いには別れが付き物のようだ。
過去を振り返るたびにゆりは今更ながら「今、ユウトと出逢えていたらな」と思う。しかし、それがきっと、運命というものなのだろう。
そのうちゆりは、膨らみすぎた愛をどうしたらいいのかわからなくなってしまった。一緒に同じ空間で同じ時を過ごしているときでも、ゆりを寂しさが襲うようになった。もちろんそんな経験は初めてだ。自分の愛が重すぎて、ユウトの自分への想いに勝手に温度差を感じるようになったゆりは、ある時とうとうその“淋しい”という苦しみから逃れるために、ある言葉を口にしてしまった。ゆりは逃げ出したのだ。
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