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僕の武器は直ぐ背後の壁に掛かっているが、距離は約三メートル弱。別に遠くもない距離だ。いざという時、即座にでも抜くことができる。
「その前に、貴方にご質問があるのですが・・・・・・兄上は、“オールドセイル家”の秘密を、ご存じでしょうか?」
「・・・何のことだ?」
「あんなに勉強熱心でした兄上ならば、もう当の昔にご存じだと思っていたのです。ご存じないのでしたら、結構でございます」
「一体何が言いたいんだ?お前なんかと、話をしている暇は無いんだ。このまま無駄な時間に付き合わされるのなら、とっとと僕の部屋から出ていけ」
全神経を尖らせていると、ヴィンセントは立ち上がった。
流石に次の行動に、予想は付いていなかった。
ワゴンを通り過ぎて、部屋の奥へと向かっていく。私自身も、ソファーから立ち上がって、注意が逸れている隙に、ひっそりと動いた。
私に目もくれず、ヴィンセントはベッドの直ぐ横の、壁に掛けられた姿見を、じいっと覗き出した。
鏡面に虚像を映さないように、角度を変えた次に、ヴィンセントは姿見の鏡面を、両手で押し出した。
すると、姿見が掛けられていた壁自体が・・・こう表現するのも何だが、とにかく・・・文字通り動いたのだ。
まるで、パズルのピースのように、そこの部分だけが切り取られたかのように、凹みが生じて、奥へとすっぽりとはまり込んだ。
隙間が出来て、そこには古い石畳の床があり・・・右手側に直ぐ、地下へ降りる階段があった。
思わず息を呑んでしまった。
オールドセイル家の秘密の地下室については、以前から知っていた。そこに、オールドセイル家の根幹に関わる秘密が存在しているという噂も、『銀狼』の幹部を通して、耳にしていたからだ。
どうして、『銀狼』がそんなことを知っているのか。単純だ。その地下は実在していて、目的用途は拷問尋問、または処刑などに、使用されていたからだ。
「・・・話は地下で致しませんか?勿論、父上には既に話は通してありますよ」
嘘だ。こんな状況で吐かれる言葉は全て、嘘に決まっている。
「この先にはね、真実があるのですよ・・・・・・オールドセイル家の、本当の真実が、ね」
だけど・・・・・・頭では嘘だと解っているのに、どうしてか、その言葉には真実味を感じてならない。
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