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この僕、ヴィンセント・アーノルド・オールドセイルの生まれは、ティーネ国のとある由緒正しき家系、オールドセイル家である。
当主である父と、継母、二つ違いの伯母と、一歳違いの兄、一歳下の弟が、家族だ。
兄とは同じ母から生まれ、弟は継母から生まれた、異母兄弟。
伯母は齢が近いが、遊んだことは無い。何故なら、伯母は生まれつきの障害で、ほとんど外に出ず、部屋の中で一年中療養状態だからだ。
僕が生まれ落ちた家系は、『影の貴族』と呼ばれる、名高い名家である。
国家の影たる騎士、『シュヴァリエ・ゼロ』を代々受け継いできた、他の家系を凌駕する、神秘の家系とも、称されている。
オールドセイル家次男たる僕は、当主である父を心から尊敬し、いつしか父のような立派な騎士になるのが、夢だった。
だが・・・・・・その夢の前には、目障りな障壁があったのだ。
兄、ウィリアムである。
兄上は、昔こそ、才能があると屋敷の者達から持て囃されてきた存在で、僕もそうなんだと、ずっと思い込んで来た。
だけど、僕が訓練に参加するようになって、兄上より僕の方が上達が早いということに、皆も気付き始めた。
それから、兄上の僕を見る目が、変わっていった。僕のことを明らかに邪見するようになって、口でも迫害の言葉を言うようになったのだ。
それが、僕への嫉妬を含んでいることは、僕は気付いていた。
兄上は、小心者だったのだ。愚かな程に。
僕は、兄上が嫌いになった。同じ空気に居るのも嫌なくらいに。
本当は一秒だって一緒の空間にいたくない。だけど、夕食は家族で摂る習慣になっているから、嫌でも顔を合わせることになる。
夕食の間、誰一人、口を開かない。ずっと、無言の間だった。
頭の席に座る父は勿論、後妻殿も、弟も。
父は元々、厳格で口少ない人だったから、食事中の会話は一切しない。
後妻殿は、唯一自分の腹から産んだ弟の世話にかかりっきりだ。まるで、合鴨みたいで、もう息子も十三歳になるっていうのに、小さい子供のように、世話を焼いている。正直、胸糞が悪い光景だ。
その弟はというと、母の過保護に任せっぱなしで、自分から何もしない。いつまで経っても、親から離れられないひな鳥状態だ。こんな奴と一滴でも血が通っていると思うと、腹正しいことこの上無い。
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