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「ならばそれで良かろう。何も無理して演じる必要もあるまい・・・そなたはどうにも、物事を深く考えすぎる傾向にある。もう少し、楽に構えなさい」
悟らせるような、優しい声音に対して、アサは端的に返答した。
世間話もそこまでにして・・・・・・ニリクは別室で待たせている娘の気配を感じ取りながら、本日出向いて来た理由について、切り出した。
「実はな、今日はそなたに紹介したい人物がおってな。そなたの良き友となるであろう・・・入って来なさい」
視線をアサに向けたまま、閉じた襖の向こうにいる娘へと投げかけた。
が。ほんの少しだけ開かれたままで、入ってくる気配が感じ取れなかった。
「?・・・フェイル?」
訝しんで、ニリクは肩越しに振り返った。
よく見ると、指三本分だけ開かれた隙間から、険しい目つきでじとりと睨みつける、金の瞳があって・・・。
その目線は、アサに向けられていた。
その向こうから漂う、ただならぬ気配に、ニリクが嫌な予感を感じ取った直後。
スパン!!と激しく襖が開かれると同時に、木刀を両手に振り上げながら、フェイルがアサへと特攻を仕掛けた。
「やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
「っ!?ま、待て!!アサ、殺すな!!」
目を丸くして、一瞬だけ反応が遅れたニリクが叫んだ。
奇襲を仕掛けたフェイルが、得物をアサの脳天に振り下ろそうとした直前。
アサが素早く動いて、フェイルが着ていた白いワンピースの裾を握ると、ぐいっと力が働く方向へ引っ張った。
「きゃっ!!」
薙ぎ倒した後、木刀を掴んでいた右手を後ろ手に回して、近くにあった柄杓を手にして、柄の先をその細い頸動脈に突き立てようとした。
が。柄杓を掴むアサの手を、ニリクが即座に掴んで、制止させた。
「・・・この娘は、私の子だ・・・・・・殺してはならぬ」
冷や汗をかくニリクを、アサは無表情で一瞥して・・・・・・その言葉に従って、フェイルを解放した。
だが、解放された途端、フェイルはきっとアサを睨みつけて、木刀を掴みなおして、またもや奇襲せんと襲い掛かるもの。
それを先読みしたニリクが、アサを殴打する前に、後ろ向きに脇に抱えて隔離した。
「すまぬ!また今度だ!元気でな!」
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