とある名家の兄弟達

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 平然を装ってると、前方から、ワゴンを引く、僕達より何歳か上の男が進んでいる。  自然ではあり得ない青色の髪、目元が隠れるぐらいに長い。暗殺向きの黒い軽装。俯く目は、オールドセイル家の遺伝子を継いだ証拠である、銀色の眼。  先程、兄上の口から出た『銀狼』の頭目だ。僕に対して会釈しただけで、無言で脇を通過していった。  “ゼロ・オールドセイル”の命令でしか動かない、私兵団の筆頭は、例え長子の前でも、膝を折ることはしない。完全なる懐刀だ。特にこの男は、父上のお気に入りのお気に入りで、寝室に入ることも許される程の、実力者だ。僕なんかと、次元の違う強さを持っている。僕は彼が苦手だ。  ワゴンに重ねた銀食器には、食事を終えた形跡が残っていた。寝込んでばかりの伯母の食事だろう。  使用人に任せればいいのにと思うのに・・・・・・父上は、何を考えているのか解らない。  伯母はいい。とにかく、問題は、兄の方だ。  父上が兄上を呼んだ・・・・・・もしかしたら、そろそろ後継についての話かもしれない。  兄上ももう十五歳。父上が、ゼロ・オールドセイルを引き継いだ歳と同じ年齢だ。  ああ。もうこの時が来てしまった。何よりも怖れていた、この瞬間が。  落ち着け。もしかしたら、違うかもしれないじゃないか。  ゼロ・オールドセイルの名を引き継ぐということには、重大な意味が含まれている。  『影の貴族』と呼ばれ続けたオールドセイル家の歴史は長い。このティーネ国が誕生した時から、ずっと国家の影となり続けてきた。その血筋には、確かに王族の流れが組み込まれていた。それは、先祖たちが娶った王家の姫君たちによる賜物だ。そうして、このオールドセイル家は力を付けてきた。今では、影で歴史を操っている程。表ではただの名家の地主で通っているが、裏ではもう一筋の王家として、『シュヴァリエ』とは違う場所で支えてきたんだ。  その当主たる、ゼロ・オールドセイルの名による効力は、絶大だ。『シュヴァリエ・Ⅰ』よりもだ。  ゼロ・オールドセイルは、初代が命名した冠名だ。引き際に、後継と定めた子に引き継ぐシステムを作られ、千年経った今でも、それはまだ続けられている。代々引き継いでいく中で、『シュヴァリエ・ゼロ』となってきた当主は、数多く。父上もまた、その一人だ。
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